世界最大の保険取引所である”Lloyds”で有名なロンドン。
その象徴でもある”The Lloyds Building”は歴史的な建造物の連なるシティ界隈の中でも独特な外観を持っているため、観光名所としても名高いです。
イギリス国内の市場規模はMS&ADホールディングスの調査によると、2015年度で
損害保険(年間元受収入保険料)約12兆円 (世界第5位)
生命保険(年間収入保険料)約25兆円(世界第3位)
です。
(MS&ADホールディングス「保険業界の基礎知識 “Ⅴ 世界における日本の保険市場”」http://www.ms-ad-hd.com/ja/basic_knowledge/market.html より引用)
このデータを見てわかるように、ロンドンは世界各地から保険会社が取引のために集まっている上に、国内の市場規模も大きい、まさに保険の中心地であります。
今回はそんなロンドンの、InsTech(InsurTech)推進団体である”InsTech London”の主催するイベントに参加してきました。
InsTech Londonについて
“InsTech London”はInsTechという次の保険会社の覇権争いになりそうな領域において、互いにできる限り情報をオープンにし、コミュニティとして互いにコンタクトの取りやすい環境を整備することを目的としています。
HPに公開されている主な所属企業は、Gen Re, Munich RE, KPMG, 東京海上日動, Trōvなど、大手の保険会社、InsurTechベンチャー、コンサルティングファームなど幅広くなっています。
会員でなくともイベントには参加可能で、私が見ただけでもAvivaなどの大手保険会社も注目しているようでした。
この団体のゴールドスポンサーはMS Amlinというイギリスの保険会社で、三井住友海上グループホールディングス株式会社が親会社です。
InsTech London:https://www.instech.london/
イベント”Insurance Where It Counts: New Solutions To New Risks” について
今回のイベントはNinety ConsultingというInsurTech専門のコンサルティング会社がオーガナイザーを勤めていました。
イベントの趣旨は、
「新しい時代の新しい問題には新しい保険商品が生まれる。現在新たな保険に取り組んでいる会社に注目して、どのような機会が現実に転がっているのかを学ぼう。」
というものです。
基本的にはInsurTechに関わっている企業による自社事業紹介の講演です。
登壇企業に限らずとても刺激的な空間でした。
イベント開始前の社交タイム(アルコールあり)
今回のイベントでまず驚いたのが、場所がセントラルのオフィス街にあるバーであったことです。
もちろんイベントに使われるバーであるのには間違いないのですが、はじめ現場に到着した際、本当にここであっているのか軽く不安になるほど外観が普通のバーでした。
グーグルマップと会場の名前を再三確認し、中に入ると地下のイベントスペースに通されました。
地下のイベントスペースにはすでにたくさんの人が集まっており、無料で飲めるバーでビールやワインを頼んで談笑していました。
実際に今回集まった人数は170人ほどだったそうです。
非常に皆フレンドリーで、色々と関係性を広げようとしている社交性の高い雰囲気がありました。
イベント開始の30分前に軽くお酒を飲みながら談笑できる空間を用意するところは、アイスブレイク含め情報交換という面でもかなりいい形だと思います。
日本でもこういう形のイベントができると、保険や金融のかたいイメージから脱却できるのではないかと少し思いました。
登壇企業
イベントは基本的に各企業の代表者による講演(スライドは無し/プレゼンのみ)と、質疑応答で進んでいきました。
ここからは、本講演で得られた情報と追加で調べた情報を合わせて、各登壇企業を紹介していきたいと思います。
Ninety Consulting(InsurTech専門コンサルティング)
事業形態:InsurTech専門のコンサルティング会社
創立:2011年
URL: https://ninety.co.uk/
登壇者:Dan White
これまでの主なクライアント:Zurich, Allianzend, RSA(ロンドンの大手保険会社), Gruidewire(ロンドンの保険会社向けソフトウェア会社), Direct Line(イギリスの老舗自動車保険会社)
「新しい保険商品のアイデアを60日で市場に提供する」というものすごくはっきりとしたスローガンを掲げています。
InsurTech Startupの技術を保険会社に提供する形でコンサルティングを行なっているようです。
企業における新規事業チームプログラム、保険イノベーションラボ、デジタルイノベーションオペレーティングモデルの設立を手がけています。
Linkedinに登録されている社員の経歴(12人)を見る限り、保険会社、IT、ホテル会社など様々なところから転職してきているようです。
123Framework というフレームワークに基づいてコンサルティングを行うという宣言をしています。
123Frameworkは簡単にいうとMVP(Minimum Viable Product)を3ヶ月間で作りあげるフレームワークです。
MVPとは「顧客にとって有用な、必要最小限の機能のみを持つもっともシンプルな製品」
を作り上げる考え方です。
ここまではっきりとどのようにプロジェクトを進めるのかについて公開しているという点に驚きました。
Parhelion(Carbon Offset保険)
事業形態:企業向けCarbon Offset(温室効果ガス排出量に対する削減義務)保険
創立:2007年
URL: http://www.parhelion.co.uk/
登壇者: Julian Richardson
Carbon Offset保険とは簡単にいうと温室効果ガスの削減による国からの補助金を担保する保険です。
まず、Carbon Offsetとは京都議定書で掲げた、温室効果ガスの削減目標に対する削減活動を差します。
各国は企業に対して削減目標を達成すると補助金を出すなどの施策を行い、温室効果ガスの削減にインセンティブを生み出してこの活動に取り組んでいます。
さて、電力会社など、膨大な量の温室効果ガスを排出する会社は、膨大な量の削減義務を持っています。
一部の会社はこの自社の抱える削減目標を満たし、国からの補助金を受け取るために、大規模な温室効果ガス削減プロジェクトに投資することがあります。
しかし仮にこのプロジェクトが失敗し、削減目標を満たせなかった場合、その会社は国からの補助金を失ってしまいます。
Parhelionはそのリスクに対する保険として、Carbon Offset保険を提供しているのです。
Zego(Gig economy保険)
事業形態:Gig economy保険
創立:2016年
URL: https://www.zego.com/
登壇者: Harry Franks
Gig economyというのはUber、Uber Eatsなどをはじめとする、インターネットで単発の仕事を受発注する経済圏を差します。
各個人ごとに保険を適用させるのは困難であるため、各プラットフォームと直接保険を統合することで、注文毎の保険適用を実現しています。
2016年創立初期は、食料品配達を行う企業のスクーターに焦点を当てた保険を提供していました。現在は、車をカバーしており、英国からヨーロッパにまで拡大している非常にスピーディな企業です。
Shepherd(施設IoTデータ分析)
事業形態:建物や設備へのIoT導入によって増加する情報の分析システムを開発しているデータ分析会社
創立:2015年
URL: https://www.shepherd.fm/
登壇者: Will Brocklebank
建物や設備が発達したIoTやセンサーを導入することで、予防保守にかかる膨大な費用が削減されます。一方で、保険会社はそれが保険請求を増やすことになるのか、それとも新たな保険需要を生み出すのかを測りかねています。
この際2つのポイントを考慮する必要があるとWill氏は言います。
1つ目はメンテナンス会社は問題を修繕することによってより高いお金を得ることができるため、予防することにインセンティブがないという点です。
2つ目は多くの企業において、リスク管理担当者はどのように同じ会社の施設管理担当者と緊密に連携して保険コストを抑えればいいのかわかっていないという点です。
Sheperdは施設から生じるデータを分析し、リスクを計算するシステム提供することで、メンテナンス会社と保険代理店、保険会社との密接なパートナーシップを作ろうとしています。
Forest Car(空港での車レンタルシェアリング)
事業形態:空港に置いた車のシェアリング、保険提供
創立:2017年
URL: https://www.forestcar.co.uk/
登壇者: Charlie Palmer
海外旅行で空港に乗ってきた車を置いて行く際に、その車をレンタルシェアできるというサービスを展開しています。ユーザーは車を貸すことで無料の駐車場と旅行の資金を手に入れることができます。
Trak Global Groupというテレマティクス(IoT)会社と連携し、同社のCarrot telematics deviceを利用することで、GPSによる運転可能範囲制限を設けて盗難を防止しています。
また、黎明期からのイギリスのInsurTech企業であるCuvvaがオンデマンド保険アプリケーションへのアクセスを提供しています。
現在イギリスの主要な空港駐車場会社から試運転の合意を獲得しており、さらなるパートナーや早期段階の資金調達を助けてくれる投資家を探しています。
Nexus Mutual(InsurTech会社向けスマートコントラクト保険)
事業形態:Ethereum上でのスマートコントラクト保険
創立:2017年
URL: https://www.nexusmutual.io/
登壇者: Hugh Karp
ブロックチェーンによるInsurTechが一般化しつつある中で、そういったアプリケーションが増えることにより発生する問題も偶発的なもの悪意を含むもの含めて増加していきます。
同社ではそういったブロックチェーン上でのスマートコントラクトにまつわる問題に対する保険を、Ethereum上で機能するアプリケーションを通して提供します。
補償範囲としては、スマートコントラクト上のコードバグやThe DAO hack、Parity multi-sig walletの問題も含みます。
同社はこの保険会社のもつスマートコントラクトに対してさらに保険をかけるという、新たな市場を生み出すことを望んでいます。
BMS – Trade Mark Connect(再保険ブローカー)
事業形態:再保険ブローカー
創立:30年以上前
URL: http://www.bmsgroup.com/
登壇者: Simon Meech
スタートアップにとっての脅威は大手競合にアイデアを盗まれることです。
知的財産は今日バーチャルな世界においてビジネスブランドの重要な要素として市場価値が高まっています。
知的財産の保護の方法には特許の申請がありますが、特許申請するには検討可能なように内容を公開する必要があります。
bmsはオーストラリアにて知的財産保護の保険商品を提供しています。
今日オーストラリアでは年間75,000もの特許が申請されています。
その中で、bmsは保険料215AUD(約2万円)で最大50,000 AUD(約412万円)の保険金を受け取れる保険商品を提供しています。
Oil Spill Insurance(オイル流出保険)
事業形態:オイル流出保険
創立:2016年
URL: http://www.oilspillinsurance.co.uk/
登壇者: Judy Hadden
その名の通り、オイルの流出に対する保険です。
イギリスには現在300万ものオイルタンクが存在しています。
この保険会社ができた背景にはJudy氏の手がけた保険案件での経験があります。
一般家庭だったのですが、その家のオイルタンクからは6ヶ月以上もの間オイルが漏れ出しており、清掃費用は200,000ポンド(約3千万円)に達していました。しかし、その家の加入していた保険の補償範囲にはオイル漏れが含まれていなかったため、保険会社は保険請求を否認したのです。
オイル漏れに関する補償はアメリカでは一般的に家財保険に含まれていますが、イギリスでは一般的にふくまれていません。
現在は保険代理店を通じて家庭向けのオイル保険を販売していますが、今後は企業向けの保険の開発に手を伸ばそうとしています。
Pivigo(データサイエンティストのグローバルコミュニティ)
事業形態:オンデマンドのデータサイエンス,データサイエンティストのグローバルコミュニティ会社
創立:2013年
URL: https://www.pivigo.com/
登壇者: Samuel Ellis
4000人以上のフリーランスのデータサイエンティストが所属するグローバルコミュニティです。
データサイエンティストが欲しい際にこのプラットフォームを通してオファーをかけることができます。
ヨーロッパ最大のデータサイエンスのトレーニングプログラムであるS2DSも運営しています。
終わりにいかがでしたでしょうか?
最後に個人的な感想を。
かなり新しい発想や視点、そしてものすごい膨大な情報量でしたが、その中でもNinety Consulting のような形で明確にサービス内容を示すコンサルティング会社があることに驚きました。
また、Forest Carの発想も面白く、法律の壁はわかりませんがある程度どの国でも可能なことのように思えました。The Global Groupと共同で作り出したテレマクティスデバイスとGPSによる行動制限なんてものすごい近未来感があって面白いのでさらに詳しく調べてみたいと思っております。
今回の情報が少しでもみなさんのお役に立てば幸いです。
寄稿者:福澤宏文