【DIA Munich】AIAグループCDO岩瀬氏「大きなインパクトを目指しイノベーションにフォーカス」

こちらの記事は、Digital Insurance Agendaの記事を翻訳したものです。
Digital Insurance Agenda管理者の許可を得て掲載しています。

The DIA Communityの創設者Roger PeverelliとReggy de Feniksによって2019年7月24日に書かれたものです。

2006年、Lemonadeが保険業界を大混乱に陥れ、FinTechとInsurTechという用語が広く知られるようになる数年前、岩瀬大輔氏は日本初のデジタル生命保険会社であるライフネット生命を共同で創業しました。 ライフネット生命は、オンラインで生命保険商品をダイレクトに販売することで、創業当初から日本の生命保険業界に衝撃を与えていました。デジタルイノベーションの真の先駆者である岩瀬氏が「自身の経験をどのようにAIAグループのCDO(Chief Digital Officer)という現在の役割に生かしているか」というテーマの講演を聞けることは非常にエキサイティングです。

AIAグループは、アジア太平洋地域に完全にフォーカスしており、18の地域で事業を展開し、香港に本社を置いています。そのポートフォリオには、3,300万を超える個人保険契約と1,600万を超える団体保険契約が含まれています。AIAは極めて優れた成長実績があり、時価総額では世界最大の生命保険会社です。デジタルイノベーションへのコミットメント、特に革新的なビジネスモデルにおけるコミットは、彼らが将来に渡って成長していくことを証明しています。

質問者:2006年の夏、FinTechとInsurTechがデジタル環境と業界全体を混乱させることなど誰も考えていなかったときに、あなたはオンライン生命保険会社の設立を決めました。どうしてそのような判断を下したのか教えてください。

岩瀬氏:「まず、当時の業界の状況を説明しましょう。多くの複雑な製品、透明性の欠如、疑念、生命保険会社に対する不信感、シンプルで透明性のある便利なソリューションを求める消費者。当時保険業界にいた私は多くの同僚から「生命保険をデジタルで購入する人はいない、不可能だ」と言われました。規制当局は、誰とも知れぬ創業当時の我々にライセンスを付与しませんでした。しかし、その後2008年5月に、1億2,000万ドルを超える資本金と生命保険行免許の付与により、ライフネット生命を立ち上げることができました。他の保険会社を親会社としない独立した保険会社の設立は、日本では1936年以来の出来事だったのです。」

質問者:素晴らしい!実際に岩瀬さんはユニコーンやFinTech、InsurTechの台頭以前から活動していました。

岩瀬氏:「そうですね。振り返ると私たちは少し時代を先取りしていました。2012年初頭には、会社はまだ小規模ながらも急速に成長していました。私たちは真に意味のあるものを作ろうと試みましたが、実に多くの課題に直面しました。追加資金調達のために、東京証券取引所に上場し、Swiss Reに対して主力投資家になっていただけるよう説得をしました。その後2015年に、日本で2番目に大きい通信会社であるKDDIがライフネット生命の筆頭株主になりました。長旅でしたが、非常に面白い旅でした。」

質問者:ライフネット生命は、2018年の夏に創業10周年を迎えました。多くの人が、貴社はビジネスモデルだけでなく、企業文化の面でも際立っていると言います。従業員の約65%は他業界の出身です。ライフネット生命の刺激的な立ち上げ期と、成熟した巨大市場に日本で初めて挑戦したことについて少し教えてください。

岩瀬氏:「当時、日本全体で年間保険料が4000億ドル以上という、世界で2番目に大きい生命保険市場でした。私たちは非常にシンプルなソリューションを提供しました。我々の主力商品である定期医療保険とその特約は透明性を担保し、保険料の削減と消費者への利益還元が可能なオンライン保険です。成功、挑戦、そして挫折を経験しましたが、ライフネット生命で達成してきたことを本当に誇りに思っています。顧客との関わり方、製品の設計方法、ミレニアル世代との関わり方を変えることができるという考えを広めることで、他の多くの挑戦者たちに刺激を与えたと思います。しかし、まだ十分に市場を変えたとはいえません。」

質問者:そうは言うものの、あなたは日本の生命保険業界に大きな影響を与え、その影響はおそらく世界規模でした。どのようなことを学びましたか?

岩瀬氏:「3つあります。1つ目は、消費者は必ずしも経済的に合理的な方法で行動するわけではないことです。皆様はどうでしょうか。純粋に経済的合理性だけに基づいた買い物は最近いつしましたか?つまり、単に顧客に価値を提供する以外にも大切なことは多いということです。2つ目は、どこよりも優れた製品を持っているからといって、必ずしも最大のマーケットシェアを獲得できるとは限らないことです。多くの場合、最良の製品を持つ企業が勝つわけではなく、最も流通力のある企業が勝つことを歴史が証明しています。3つ目は、私がビジネススクールにいる時に学んだケーススタディを思い出させる地道な経験です。例えば、マーケティングのチャネル流通戦略に関して「仲介者を排除することはできますが、彼らが提供している機能を完全に排除することはできない」という勉強をしたことがあります。私たちは、顧客に直接アクセスすることで大きな価値を生み出すことができると信じていますが、保険代理店が長い間存在しているのには多くの理由があります。保険代理店を完全に排除することはできませんし、彼らから吸収すべきノウハウはたくさんあります。テクノロジーは生産的な方法で生命保険を販売したり、消費者が生命保険をより効率的に購入したりするための手段なのです。しかし、2008年から2018年にかけて、消費者の大半は、より効率的なネット生保で契約しようとはしませんでした。」

質問者:結局のところ、テクノロジーは目的を達成するための手段です。そのため、2017年後半、AIAグループのCEOであるケン・ホイ氏があなたにアプローチし、別の課題を提案したということですね。

岩瀬氏:「その通りです。AIAの現CEOと先程述べた考えを共有しました。強力な保険流通網の存在を考えると、AIAはテクノロジーの力を通じた保険販売の強化に注力すべきです。ライフネット生命が2018年の夏に10周年を迎えた後、私は起業家から転身し、アジア最大の生命保険会社のデジタル・イノベーション領域を主導しました。」

質問者:ヨーロッパでは、多くの人がトッテナム・ホットスパーのスポンサーシップを通じてAIAのことを認知しています。貴社についてもう少し詳しく教えてください。

岩瀬氏:「AIAは、アジア太平洋地域の18の市場に存在する、アジア最大の独立系生命保険グループです。私たちは1世紀前の1919年に上海に根付きました。2008年、AIGの危機による再編を終え、上場企業としての地位を確立しました。2019年6月現在、AIAの時価総額は1,200億米ドルと評価されており、時価総額で世界最大の生命保険会社となっています。」

質問者:企業家から巨大企業へ転身したことについて、何があなたを駆り立てたのですか?

岩瀬氏:「その理由は、企業規模の大きさとAIAプラットフォームを通じて得られる潜在的な効果です。AIAを通じて、18の市場で3,000万人の顧客の生活と関わることができます。言うまでもなく、私はこのチャンスは非常にエキサイティングだと思っています。生命保険会社の基本的な性質が、保険金を支払うだけの存在から生涯のパートナーに大きく変わり、保険契約者の健康と生活をサポートする立場へと変革を遂げる過渡期が今であると思っています。しかし、現在の生命保険業界は、次の理由から近い将来に渡っても盤石であると考えています。それは製品の購入頻度が低いことです。デジタルの力は、アマゾンや旅行などのように非常に頻繁に購入するものが関係している場合に最適です。日用品には当てはまりますが、保険は事情が異なります。」

質問者:あなたの見解では、この先の保険業界はどうあるべきでしょうか?

岩瀬氏:「業務をデジタル化することで付加価値を高めることができますが、その影響は限られています。私たちにできることは、エンゲージメントの性質を変えることです。契約者が体調を崩したり病気になったりしたときの接点を増やすことで、保険事業者は健康的な生活の魅力的なパートナーになります。デジタルがより大きな影響を与える機会は増すでしょう。基本的には、アジアの中流階級は成長し続けます。アジアの中流階級は、愛する人のための保障を求める新興の上昇中流階級の大部分を占めます。AIAの競争優位性は、健康とウェルネスに焦点を当てていることだけでなく、統制の取れた代理店管理と、銀行や通信会社とのパートナーシップ、その他の新規パートナーとの関係構築など、安定的で競争力が高いところにあります。」

質問者:そのような構想を実現するための戦略について可能な範囲で教えてください。

岩瀬氏:「このイノベーションイニシアチブの一環として焦点を当てたい4つの戦略分野を特定しました。まず、保険流通のデジタル化です。2つ目は、顧客エンゲージメントとエコシステムの構築。3つ目は、ヘルステックを中心とした差別化ポイントの強化。そして、人工知能とデータ分析です。適切なサポート、確かな技術とソリューションの提供に加え、私が今共有したビジョンを実現するにあたって18の市場で他の国に展開するために、アジアで基盤を強化しようとしている強力なテック企業を探しています。」

質問者:現行の組織とInsurTechのイノベーションを融合させてスケーリングすることは困難なように思います。起業家としてのあなたの経験のおかげで、伝統的な大手保険会社と比較して、違う視点から物事にアプローチできるでしょう。

岩瀬氏:「私はイノベーションのためのイノベーションには興味がありません。実際に影響を与えるものにのみ焦点を当てたいと思います。ここでいう影響というのは、1,200億米ドルの時価総額を更に引き上げるものを意味しています。孤立した研究室やグループオフィスではイノベーションは起きません。それは戦略的優先事項に組み込まれなければならず、日々事業を営んでいる国や市場が主導しなければなりません。それをサポートするには、明確な予算が必要です。実際のビジネスを評価・構築するには、社内の技術チームと緊密に連携する必要があります。もちろん、イノベーションや新しい取り組みへの挑戦を妨げる原因ともなる文化や考え方を変えることも必要です。

質問者:デジタル、データ、イノベーションに関与するエグゼクティブとして、現在の役割からこの課題に対しどのように取り組んでいますか?

岩瀬氏:「先ほど述べたように、流通パートナー、代理店、銀行、通信会社のパートナーを作っています。生命保険販売の生産性を向上することで、顧客体験を豊かにし、従業員や同僚がより効率的に業務を行えるようにするために、私たちができることはたくさんあると思います。私が加入する前から、AIAはすでに多くのデジタルイニシアチブに従事していました。例えば昨年、当社は投資家グループとして、オンラインヘルスケアソリューションプラットフォームであるWeDoctorに5億ドルの戦略的投資を行い、シームレスなオンライン・オフラインのヘルスケアサービスを提供すると共に、中国の一般開業医と専門医の統合を行いました。WeDoctorのプラットフォームには毎月2,700万人のアクティブユーザーがいます。この戦略的提携により、お客様に新しい価値提案を提供し、WeDoctorが持つ幅広い顧客基盤と、私たちが追求している多くのデジタルイニシアチブにアクセスできると考えています。」

質問者:生命保険の将来はどのようになると思いますか?

岩瀬氏:「将来変化する可能性のあるものはたくさんあると思いますが、ライフネット生命での10年の経験から、消費者の行動の変化が実際にどれほど遅く、またはほとんど変化しないかについて謙虚になりました。変わらないのは、生命保険製品の基本的な性質であり、将来に渡って家族を守るための金融ソリューションです。しかし、私たちは周りで起こっている、消費者の行動や期待、生命保険と損害保険の役割に影響を与える多くの変化に耳を傾けています。皆様にアジアのエネルギーを感じていただけると思っています。将来の機会は、テクノロジーとイノベーションを通じて我々の成長を促進するための真剣な取り組みです。」

 

原文は以下のリンクよりご覧になれます
https://bit.ly/2kCotQb