2019年InusrTechのトレンドナンバー1:保険を超えたエコシステム

こちらの記事は、Digital Insurance Agendaの記事を翻訳したものです。
Digital Insurance Agenda管理者の許可を得て掲載しています。

The DIA Communityの創設者Roger PeverelliおよびReggy de Feniksによって2019年4月8日に書かれたものです。

顧客の真のニーズを知るために最も効果的な方法は、関連するプラットフォームとエコシステムの一部になることです。プラットフォームは、生活や経済およびリスクの課題を解決するためのものです。そのように聞くと、家庭、交通、仕事、そして健康を取り巻く分かりやすいプラットフォームを思い浮かべる方が多いかと思います。一方で、学業、結婚、離婚、退職などの人生の中でも重要な経済的決定に関わるライフイベントを取り巻くプラットフォームもあります。その好例が、モバイル分野におけるBaloise(注1)のプラットフォームMobly(注2)です。 Moblyは、中古車を購入するときに、あらゆる関連情報、幅広いサービスプロバイダーへのアクセス、購入プロセス全体を通じた専門家によるサポートを提供することで、顧客サポートを開始しました。他のモビリティサービスも既に追従しています。


「保険を超えたエコシステム」
が、今後何年にもわたって保険業界全体においてトレンドとなるでしょう。メガトレンドというようにも解釈していただけるかと思います。
Moblyのベストプラクティスはこのトレンドにぴったりの事例です。顧客が欲しているのはあくまで自動車で、それが中古車である可能性はもちろんあります。自動車保険はあくまで自動車から派生して生じるニーズなのです。


業界の枠を超えた保険
保険に対するニーズの裏側にある真のニーズを満たすためには保険以上のものが必要です。「業界の枠を超えた保険」は「補償だけにとどまらない商品」を意味します。つまり、必要なのは新しい保険商品ではなく、真のニーズに応えるための新しいサービスを開発するということです。保険会社がコンフォートゾーンから抜け出すためのさらなる要素もあります。例えば、医療費の上昇という問題に対しては、保険金の支払い以外の幅広いソリューションを必要としているということです。

従来のバリューチェーンにとどまらないプレイヤー
従来の保険業界の限界にとらわれずに、顧客の真の問題を解決することから出発したとき、エコシステムは真の成功を収めます。保険業界以外のプレイヤーとの協業は当たり前のように行われるべきです。

保険にとどまらないInsurTech企業
業界間の境界が曖昧になると、全てのプレイヤーをひとくくりにする意味が薄れます。つまりテック企業が本当にInsurTech企業なのか否か、画一的に判断すべきではありません。
3年前にInsurTechという用語が初めて登場した頃は、InsurTechは既存の秩序を新商品や販売モデルで壊そうとする「チャレンジャー」(第一波)とみなされていました。OscarやLemonadeを考えてみてください。それ以来、InsurTechの定義は徐々に「イネーブラー」(第二波)へとシフトしました。保険のバリューチェーンの特定の部分を改善することに焦点を当てた革新的なハイテク企業という意味です。

InsurTechの第三波
エコシステムの重要性が増しているということは、我々の視野をさらに広げる必要があるということです。保険会社の提供価値を改善する全ての組織は我々にとって興味深い存在です。他業界では、新しい技術の採用がスムーズです。例えば、RPAは別の業界で開発された新しいテクノロジーの典型例です。また、IoTと医療分野では純粋に医療の向上と患者の安心にフォーカスした多くのテックスタートアップが見られます。
例えばSomnox(注3)は、睡眠の質を高めて睡眠薬を使わないようにするために「スリーピングロボット」を開発しました。彼らのメイン事業は保険ではありませんが、Somnoxが保険会社にとって興味深いのは明らかです。

有言実行
「保険を超えたエコシステムが成功する」と主張するからには実行する必要があります。そして我々は実際に行動にうつしています。DIAカンファレンスのプログラムを企画する際には、関連する業界の動向を考慮します。そういう訳で我々のステージでの基調講演者の中にはBMWや楽天、フィリップスの方もいます。選ばれた50の科学技術系のプレゼンテーションの中には、医療機器やカーテレマティクスのデータを利用するなど、他の分野と関わる多くの革新的なテック企業があります。

Barcelona Health HubとDIAのパートナーシップ
「保険を超えたエコシステム」もまた、DIAの多くのパートナーシップにおける基本方針です。 最近設立したBarcelona Health Hub(注4)がDIAのパートナーであることをお知らせできて光栄です。我々は保険を超えたエコシステムが成功すると確信し、DIAのバルセロナ支部をBarcelona Health Hubに移転することにしました。医療分野や医療と保険の両分野で事業を行う多様なスタートアップとの関連性に注目しています。

Community of InsuranceとBarcelona Health HubのCEOであるルイス・バドリナス・ピロンと膝を交え、設立の背後にある壮大なアイデアや計画について尋ねました。

ルイス・バドリナスは、素晴らしいキャリアの大部分を保険業界に捧げてきた方です。彼はGenerali Group(注5)の一部であるVitalicio Seguros(注6)からスタートしました。その後、彼はスペインとポルトガルのドイツ銀行保険グループのCEOになりました。そして、チューリッヒによるドイツ銀行の保険事業の買収後、彼はGlobal Life Spain(注7)のCEOおよびチューリッヒグループのリーダーシップチームのメンバーに任命されました。2014年にルイスはカルロス・ビウルンとCommunity of Insuranceを設立しました。Community of Insuranceは、InsurTechスタートアップと共にデジタルテクノロジーを通じてイノベーションを促進する、ナレッジコミュニケーションとマネジメントの会社です。

質問者:ルイスさん、Hubがどのような組織であるかご説明いただけますか。

ルイス氏:Barcelona Health HubはNPOです。我々のミッションは、デジタルヘルスにおける革新を促進して業界に応用することです。これを達成するために、新規事業、医療機関、企業、そして投資家を結びつけています。我々は、医療分野におけるデジタルの変革を加速するためエコシステムを構築しました。

質問者:Barcelona Health Hubの背後にあるビジョンを共有していただけますか?また、Hubはどのような課題を解決していますか?

ルイス氏:我々はデジタルヘルスの推進に携わっている全てのプレイヤーを結びつけて、世界中にグローバルなエコシステムを構築することを目指しています。
2つ目の質問については、課題よりもむしろデジタルトレンドについて話すべきです。我々は最も重要なデジタルヘルスのトレンドを特定しました。そのため、ヘルスケアと医療がどこに向かっているのかについて最先端の知見があります。現時点での最新情報には、ゲノミクスとブロックチェーン、症状チェッカー、糖尿病との技術的な戦い、医療保険とウェアラブルトラッカーの結びつき、複合現実が医学教育への応用があります。また、人工知能が医学的にも有用であると実証されています。

質問者:壮大なアイデアとは何ですか?また、Hubの哲学を共有していただけますか?

ルイス氏:我々は医療の改善に取り組んでいる全ての人々を結びつけたいと考えています。たとえば、人々の生活を向上させるためにデジタルヘルスソリューションを適用する人々について考えてみましょう。彼らは高齢化社会において非常に重要です。健康的な生活を守っている企業や組織、イノベーション、アイデアは、デジタルデバイスを使って注目を集め、病院を存続させ、素質ある実行部隊を集めます。デジタルヘルスのエコシステムは、新規事業、投資家、企業、病院、大学間の接触や関係を刺激すると信じています。

質問者:Hubにはすでにかなりの数の企業が参加していますね…弊社もなんとかHubへの移転が間に合いました!

ルイス氏:はい!Hubは我々の予想以上に急速に拡大しています。我々は真のニーズを捉えているようです。たった3ヶ月の間に、幅広い新規事業、企業、投資家など、すでに50社以上の企業が参加しています。我々は現在、大学、病院、公立および私立の機関ともつながっています。企業と組織は、DIAと同様に入居者としてスペースを占有する、もしくは世界中から準会員としてスペースを占有するという2つの方法でHubの一員になることができます。

質問者:Hubはどのようにして企業間の協力を促進しますか?

ルイス氏:あらゆる種類の活動を通してです。我々はこの分野のすべてのエージェントの間でのコラボレーションを促進します。また、企業や団体がデジタルヘルス分野で事業を発展させ、それらをより競争力のあるものにするための支援をします。我々は実際にイノベーターの交流の場になり始めました。デジタルヘルスを推進するためのミーティング、展示会、セミナー、カンファレンスを開催しています。いずれも知識の普及とイノベーションの創出を目的としています。さらには、新しいデジタル技術の採用を通じて医療の革新を促進します。

質問者:具体的にはどのような事例がありますか?

ルイス氏:例えばアメリカでは、世界初かつ世界最大のデジタル医療保険会社であるOscar HealthとAXAが提携し、保険料収入の大幅な増加を計画しています。ヨーロッパのゼネラリは、顧客の健康的な行動を支援する健康イニシアチブ「Vitality」を始めました。Mediktor(注8)は、Munich Re、DKV、Mapfreなど、様々な保険会社と契約を結んでいます。


質問者
:たくさんのブランドがBarcelona Health Hubにも関わっているのですね…もちろん、我々がバルセロナのオフィスをHubに移すと決めた時、Hubの哲学だけでなく素晴らしい立地にも魅了されました。

ルイス氏:そうですね。我々は幸運にもこの特別で印象的な建築物を拠点としています。旧Hospital de la Santa Creu i Sant Pauは現在、ユネスコの世界遺産に登録されています。
全体の構造は、モダニズム建築のアール・ヌーボーを代表する建築家の1人であるリュイス・ドメネク・イ・ムンタネーによって設計されました。この建物は実際に100年間ほど病院として利用されていました。そのため、環境はBarcelona Health Hubの目的と完全に一致しています。2,000平方メートルのオフィスは、サント・マヌエル・パビリオン内にあります。そこでは、アールヌーボー様式と最新技術を備えたコワーキングスペースおよびショールームスペースが組み合わさっています。

質問者:ロケーションは2つの意味で機能していますね。Hubはサンパウの街のヘルスエコシステムの一部であり、サンパウもまたHubのエコシステムの一部ということですね。

ルイス氏:その通りです。我々はここバルセロナで国際的なリファレンスモデルを構築しています。我々のメンバー企業は、病院や研究所、医学部(UAB)そして看護学部(EUI-Sant Pau)と同じ都市に拠点を置いています。CEOとしての私の役割の一つは、ヘルスケアのデジタル化を活性化し、世界中の大学と病院を結ぶために、新規事業、ヘルス企業、および投資家の間の交流を促進することです。


質問者
:今後の計画はありますか?

ルイス氏:今後は、デジタル医療の国際的なリファレンスセンターに働きかけ、イノベーターとタレントを引き付け、バルセロナを医療分野のリーダーもしくはグローバルベンチマークとして位置づけます。

左から順に
Cristian Pascual Forcada(Mediktorの共同創業者兼CEO)
Luis Badrinas Pilon(Barcelona Health Hub のCEO、Community of Insurance)
Reggy de Feniks(DIAの共同創設者)
Carlos Biurrun(Community of Insuranceの創設者)
Josep Carbó(Mediktorの事業開発)

(注1)スイスの金融グループ
(注2)Mobly:https://www.mobly.com.br/
(注3)Sumnox:https://jobs.somnox.nl/
(注4)医療スタートアップのプロモーター
(注5)イタリア最大手の保険会社であるゼネラリ社を中心とするグループ
(注6)スペインの保険会社
(注7)チューリッヒグループの保険会社
(注8)オンラインで診察・緊急度判断・診断を行えるサービスを提供する会社

 

原文は以下のリンクよりご覧になれます
https://www.digitalinsuranceagenda.com/357/the-number-1-insurtech-trend-for-2019-ecosystems-beyond-insurance/