保険業界が直面する「顧客関係の構築」という課題

こちらの記事は、Digital Insurance Agendaの記事を翻訳したものです。
Digital Insurance Agenda管理者の許可を得て掲載しています。

The DIA Communityの創設者Roger PeverelliとReggy de Feniksによって2019年1月16日に書かれたものです。

 

世界と人々のニーズの変化に伴って保険業界はここ数年で進化しました。「競争力を高めるためには、InsurTechエコシステムにおけるイノベーションを取り込むことができるオープンイノベーションシステムを構築する必要があります。オープンイノベーションシステムに関する専門性は、新しい成功要因の鍵となります。そのため、私たちはイノベーションの活用に力を入れています。」と、MAPFREグループ(注1)のグローバル改革推進リーダーであるジョセップ・セラヤ氏は述べています。

ジョセップ・セラヤ氏は、会社におけるイノベーション戦略の策定と実行、イノベーション文化の推進を担当しています。彼は8か国の製品開発に取り組むチームを率いて、世界中の約200名のイノベーション部門のメンバーを束ねています。また、MAPFREのコーポレートベンチャーキャピタル、および大学との関係の責任者でもあります。
MAPFREグループは、マドリードに本拠を置くスペインの保険会社です。ラテンアメリカで3番目に大きい保険グループで、ヨーロッパでは11番目の規模です。MAPFREの米国における自動車保険のシェアはトップ20に入ります。ジョセップ・セラヤ氏は、2018年のDIA Munichでビジョンを共有した思想的指導者の一人でした。DIA Amsterdam 2019で同様のレベルの基調講演を予定しています。DIA Amsterdam 2019は6月25〜27日に開催されます。チケットはまだ入手可能です。登録するにはこちらをクリックしてください。

 

質問者:保険会社は、単に商品を提供する企業からサービス事業者へと移行していると考えられます。それらのサービスには補償の提供よりも広い視野が必要です。つまり、顧客の視点を適切に捉えて実際に彼らの生活に溶け込むことが必要となります。

ジョセップ氏:まさにその通りです。私は8年間しかこの業界で働いていないので、保険業界では割と新参者です。保険業界に対する私の第一印象は、業界関係者が消費者と保険商品と顧客の関連性を過大評価しているということです。つまり彼らは現実とは異なり、常に顧客の意識が保険に向いていると考えているということです。顧客は、自分がどのクレジットカードで支払いをしているのか忘れてしまうのと同じように、保険の存在を忘れがちです。

質問者:とても本質的ですね。それは新たな課題です。

ジョセップ氏:その通りです。私たちが直面している課題は、顧客の邪魔にならずに適切なタイミングで正しい問題を解決することによって顧客との関係を構築することです。自身のブランドを宣伝して広告を出すなど、古いブランド意識のパラダイムは現実とは完全に相反します。現実を受け入れるために、私たちは顧客の生活のあらゆる場面、つまり私たちがサービスを提供できる全ての瞬間に溶け込まなくてはなりません。そのためにはサードパーティのエコシステムと一体化することが必要です。

質問者:つまりあなたの見方では「エコシステム思考」が浸透しているというのですね

ジョセップ氏:エコシステムは、伝統的なバリューチェーンの思考や業界のバーティカルセクターの定義と比較して、経済構造の編成が根本的に変化したものです。現代では、エンドカスタマーとの関係を少数の特定の企業が手中に収めるという新しい現実に向かっています。これはテクノロジーの世界に限ったことではありません。同様の現象が自動車メーカーで起きており、今後は他の産業でも同じことが起こるでしょう。これは誇張ではありません。完全なる革命です。私たちは変化の時代に直面しています。この変化は、テクノロジーの枠を超えて新しい分野を活動に巻き込みます。

質問者:こうした企業との繋がりの多くは、巨大なテックプラットフォームによって提供されます。保険のエコシステムに関しては交通、住宅、仕事がいつも言及されます。今後10年間で最も重要なプラットフォームやエコシステムは何でしょうか?

ジョセップ氏:ほとんどのB2CサービスはGoogle、Amazon、Apple、Alibabaなどのテクノロジープラットフォームが仲介します。彼らは消費者との関係構築競争で勝利を収めています。私の意見では、こうしたハイテクプラットフォームは保険会社に取って代わるのではなくむしろディストリビューターになるはずです。たとえばMAPFREでは、保険販売のためにAmazonと提携しています。
「誰が仕事を取り仕切るのか」「誰がそのエコシステムのメインプレーヤーになるのか」が問題だと思います。メーカー、テクノロジープラットフォーム、さらにはUberのような新しいプラットフォームの間の競争は興味深いです。既存のメーカーか新規のメーカーかを問わず、メーカーがエコシステムの中心にいる可能性が非常に高いでしょう。
まだ発展途上の他のエコシステムがあるので、どの分野が中心になるかはあまり明白ではありません。スマートホームと医療の分野は依然として非常にオープンな状態です。これは機会であると同時に驚異でもありますが、それは実際には今後の計画次第です。多くのプラットフォームが伝統的な産業から価値を捉えることを目指していると思います。ですがこの新しいゲームのルールを学べば顧客との関係を握れることでしょう。

質問者:こうしたプラットフォームやエコシステムにおいて保険会社が主導的な役割を果たせると思えないのですが、どのようにお考えですか?

ジョセップ氏:保険会社が中心になるでしょう。保険業界のエコシステムを作り出すのは難しく、それに成功するのは例外的なプレイヤーだけです。私たちは成功したプレイヤーに注目しがちです。成長過程で失敗したプレイヤーには注目しません。ですので、私の答えは保険会社が中心たり得るということです。株主の皆様には朗報ですね。

質問者:つまり、プラットフォーマーは保険業界を独占しようとすべきでないということですね。そしてそれは彼らにとって悲劇ではないと。

ジョセップ氏:そうです。プラットフォーマーは利益を上げることができますが、エコシステムを構築することはできません。ですので独善的にはならず、合理的な決断を試みましょう。私たちは、サードパーティのエコシステムの中心にいることで利益を挙げられるはずです。これこそ私たちが目指すものです。少なくともプラットフォーマーが保険の市場の大部分を放棄したくないのであれば、保険会社との協力は不可避だと思います。

質問者:全ての新しいアイデア、計画、コンセプトを考慮すると、InsurTechはどのくらい重要ですか?

ジョセップ氏:従来のプレーヤーは、デジタル事業のために新しいスキルが必要だと思います。新しいマーケットダイナミクスからもそのスキルが必要に迫られています。新たなスキルを得るための最も賢明な方法は、InsurTechのエコシステムとパートナーを組むことであると確信しています。競争力を高めるためには、InsurTechエコシステムにおけるイノベーションを取り込むことができるオープンイノベーションシステムを構築する必要があります。オープンイノベーションシステムに関する専門性は、新しい成功要因の鍵となります。そのため、私たちはイノベーションの活用に力を入れています。

質問者:未来の顧客関係構築とは、デジタルスキルとパートナーシップの育成によって行われるのですね。

ジョセップ氏:その通りです。win-winのビジネスモデルを作りあげて協力するのは簡単ではありません。全てのステークホルダーが、協力関係によって摩擦が生じることを知っています。しかし私は、その不和を解消してwin-winのパートナーシップを構築できる企業だけが生き残ると確信しています。

質問者:InsurTech企業と既存プレイヤーの間で協力関係を構築する上での成功要因は何ですか?実際にどのようなことをされていますか?

ジョセップ氏:MAPFREでは「insur_space」を立ち上げました。「insur_space」とは、InsurTech企業と既存プレイヤーとの企業間の協力を促すためのオープンイノベーションプラットフォームです。このプラットフォームの主な目的は、協力関係を構築する上での不和を減らすことです。さらには、スタートアップがユニークなバリュープロポジションを持ち込んで保険会社内での応用を可能にします。他にも、既存プレイヤーのビジネスプロセスに関わる人々を手助けします。つまり、insur_spaceは社外からイノベーションを持ち込むことで社内のイノベーションを起こす機能そのものです。

質問者:素晴らしいイニシアチブを発揮されていますね。InsurTech企業が、10人以上もの保険会社のメンバーに圧迫されながらミーティングを行うという現場に何度出くわしたことでしょうか。契約書は電話帳のように厚く、他社との協業を一切禁止するという内容のものもありました。古い意思決定プロセスは私たち全員に関わる問題だと思います。InsurTechとの協力によってMAPFREの意思決定をスムーズにした立役者として、大企業とベンチャー企業との協業についてもう少し詳しく教えて下さいますか。

ジョセップ氏:私もスタートアップから来た2名の方が、20名もの大企業のメンバーに囲まれている現場を見たことがあります。弁護士、コンプライアンス部門の方、保険金請求担当者などがいました。まともな議論をすることなど明らかに不可能であり、意思決定プロセスは果てしなく続き、最終的にはゴールなどどこにもありません。スタートアップは、1週間以内に答えを出すことを大企業に求めています。一方で、大企業にとっては1週間は1分のようなもので意思決定には短すぎる期間です。
30年間で25回のEXITを成功させてきた起業家は「真の問題は、一方が中国語を話し、もう一方が英語を話している場で、彼らは互いに違う言語を話しているとさえ気づかないことである」と述べています。従って、プロセスを円滑にして両者の考えを伝える翻訳者が必要になります。翻訳を機能させるには、状況を作り出すことが必要です。最初のステップは、両者のプライオリティの違いを認識してそれを全ての人にとって明白にすることです。

 

(注1)スペイン最大手の保険グループ
https://www.mapfre.com/corporativo-es

 

原文は以下のリンクよりご覧になれます
https://www.digitalinsuranceagenda.com/357/the-number-1-insurtech-trend-for-2019-ecosystems-beyond-insurance/