加速するデジタル化
新型コロナウイルスによって、世界各国にすでに進みつつあったデジタル化(DX:デジタルトランスフォーメーション)は急激に加速しました。世界各国で、リモートワークの一環としてZoom、Teams、Meetなどを使ったオンラインミーティングが広く浸透しました。食料品からファッション、電化製品まで、ありとあらゆるものをオンラインで購入できるようになりました。他にも、登校しないでもいいような遠隔授業、ストリーミング映画、オンラインでのワークアウトやヨガクラス、レストランの料理のテイクアウトやデリバリー、Zoomでのオンライン飲み会、自宅での礼拝、オンラインでリアルタイムに葬儀に参列することさえもできるようになり、この数ヶ月のうちに「新たな生活様式」が一気に浸透しました。
何年もかけて小さなステップで段階的に進んできたデジタル化は、新型コロナウイルスによって数週間のうちに強制的に受け入れられるようになりました。私たちが新たな生活様式を長く続けていればいるほど、様々な場面でのデジタル化がさらに広がり、そして新たな生活様式が「普通」のこととしてさらに浸透します。私たちが現在経験していることは、生活の根本的な変化と言えるでしょう。人々の暮らしや仕事に浸透した新たな生活様式が、新しい規範となります。そして、その新しい規範こそが、私たちの日常生活を立て直すことになるでしょう。
- NOMURAの調査によると、コロナによって隔離された期間に、中国でのネット利用時間は20%増加していました。
- 欧州の一部の国ではボーダフォンのインターネット利用率が急上昇、50%前後まで上昇しました。この背景としては、外出自粛中の小学生がオンラインゲームのFortniteにログオンしたり、複数のデバイスで映画を見たり、さらにはテレワークやオンラインショッピングなどの人々のさまざまな活動から来ています。
- アダルトサイトの需要は、コロナ危機によって大規模に増加しています。フランスの政府は、インターネット通信の負荷を軽減するためだけにアダルトサイト提供会社に対して画質を低下させる要求をだしました。
- 米国では、オンライン動画分析等のソリューションを提供しているConvivaによると、パンデミック中のストリーミングも26%急上昇しています。
- 外出自粛中でもオンラインを活用した社会とのつながりを試みる人も少なくありません。世界の消費者のほぼ45%がソーシャルメディアに時間を割いており、10%以上が自分で動画を作成したりアップロードしたりしているとGlobal Web Indexは述べています。
加速するリモートワーク
「人間は習慣の生き物である」と、哲学者であるジョン・デューイの名言にもある通り、私たちの生活は習慣で成り立っています。例えば毎朝、あなたは外に出て、毎日の電車やバスを待つけれども、通勤をする以外の「他の方法」があるかどうかを考えたこともなかったでしょう。実際に何百万人もの人々が今、長い通勤時間のない日々を経験する機会を得ました。パンデミックによって私たちの働き方は大きく変わりました。少し前までは、リモートワークや在宅勤務に対して消極的な企業が多かったです。しかし、今年の初めには在宅ではできないと思っていた業務においても、数ヶ月後には一気に進みました。例えば、パンデミック以前は、多くの企業がコールセンターの在宅勤務は全く考えられないと考えていましたが、パンデミックが始まって数ヶ月後には在宅勤務が可能になりました。経営層や管理層は、Zoom、Teams、Google Meetなどのソリューションが、会議を行う上で十分機能するものであり、多くの意思決定業務をリモートで行うことができることに気づいています。多くの従業員が、そもそもなぜオフィスに行かなければならなかったのかと疑問を持ち始めています。そして、リモートワークが浸透したこの状況が以前のように戻ることはないだろうとの見方が強まっています。
このパンデミックに対応して、米国の保険会社トップ10のNationwideは、20の拠点のうち16の拠点で恒久的に在宅勤務を行う計画を発表しました。同社が98%の在宅勤務モデルへの迅速な移行を余儀なくされたとき、サービスの質を落とすことなく顧客やパートナーにサービスを提供できることが判明しました。 「私たちの目標は、回復力と業務効率を高めながら、競争力と価格のあるソリューションでビジネスを獲得できるようにすることです」とCEOのカート・ウォーカー氏は述べています。
家庭におけるデジタル化と、セキュリティの重要性
人々があらゆる種類の新技術を日常生活に取り入れるということは、仕事だけではなく家庭にも影響を与えるでしょう。世界中の家庭は、今後数年の間に、よりデジタル化やスマート化が進み、ますます便利になっていくでしょう。その一方で、リモートワークは新たなリスクにもつながります。在宅勤務をする際における自宅のネットワークセキュリティについて意識する人は、実は少ないのではないでしょうか。短期間で非常に人気があった Zoom についても、ハッカーがZoomセッション用の偽ドメインを作成し、件名に「covidニュース」を含むフィッシングメールを送信するなどといった、セキュリティの脆弱性があると指摘されたこともあります。Bitdefenderによると、3月のデジタル攻撃の件数は2月より475%も増えています。セキュリティの安全性と信頼性はこれまで以上に重要視されています。
移動方法のさらなる変化
交通網が発達した現在、新型コロナウイルスの影響は多面的であり、そのため予測が難しいとされています。外出制限が解除されてまた自由に外出できることは喜ばしく思う一方、当分の間は感染しないよう気をつけなければなりません。人々は、少なくとも余裕があるときには、公共交通機関を利用しないことを好むでしょう。例えば、通勤に自家用車を使用できる人は、接触を避けるために通勤に自家用車を使用することを選びます。中でも中国、オランダ、トルコ、英国ではすでに新車や中古車の販売台数が増加しています。明らかに、これは交通量の増加につながり、結果的に事故の増加につながる可能性があります。一方で、リモートワークに慣れている企業や人は、通勤をする生活ではなく引き続きリモートワークができないかなどを検討するでしょう。人々の働き方や移動方法は確実にシフトしていきます。
- SwissReのテレマティクスソリューションを利用しているドイツのPHYD保険会社は、3月と4月の1週間の車の移動回数が2月に比べて41.4%も激減しました。同期間にスピード違反は平均で21.3%増加しています。
- AMODOの技術を使用している保険会社は、3月と比較して4月に車を運転する人の数が56%減少し、旅行をする人の数が35%減少し、プラットフォーム上のすべてのユーザーを介して記録された人々の移動距離が32%減少しました。
- Floowでは、南アフリカでは旅行を予定する人が一晩で90%の落ち込みを記録するなどの大幅な減少が見られました。一方、英国では南アフリカに比べて反応が鈍く、ロックダウンが発表された3月24日に旅行を予定する人が30%減少しました。
より多くのお客様のご要望にお応えするために
消費者は今、モバイルやオンラインサービスの利便性をさらに実感できるようになりました。消費者は保険会社にも同様のサービスレベルを期待しています。デジタルでのやりとりがうまくいかなかった場合には、より良いサービスをデジタルで提供している別の保険会社に乗り換えるようになります。多くの保険会社が苦難の道を辿っています。政府がコロナ感染拡大防止のために対面での打ち合わせに歯止めをかけると、デジタル化に対応できない保険会社、ブローカー、代理店の売上は崩壊しました。
明らかになった伝統的なモデルの弱点
デジタルリーダーとそうでない組織や人のギャップが広がっています。デジタル化はすでに始まっており決して新しいものではありません、加速しただけです。デジタル化の影響は日常業務にとどまらず、ビジネスモデルそのものにまで及んでいます。多くの企業は、これまでFace2faceチャネルを常に重要な差別化要因とみなしてきましたが、この危機の中ではもはや崩れ去りました。そして、変化に対応できない企業を弱体化させました。これにより、従来の流通モデルは、実は競争力がなく、持続可能なものではないことが判明しました。その上、変化する状況や物理的な世界の変化に迅速に対応できるほどの機敏さはありませんでした。その一方で、デジタルモデルを取り込む企業の方が危機から守られていて、将来性があることがわかりました。リモートでの取引を可能にする先進技術は、従来のモデルを凌駕しています。このような違いがこれほど明確になったことはかつてありませんでした。保険業界がよりデジタル化する必要があることは、何も目新しいことではありません。しかし、今回の危機は、保険のデジタル化がこれまでいかに遅々として進まなかったかを明らかにしました。
- スティーブン・メンデル、Bought by Many 共同創業者兼CE(イギリス) :
「ロックダウンが始まった3月末から4月にかけて、当社の売上は急上昇し、売上は前年同期比で2倍になりました。」 - フェデリコ・マレック、iúnigo 最高経営責任者(アルゼンチン):
「ロックダウンの最初の数週間は、従来の企業と同じように苦しみました。しかし、8週間で完全に回復したことを経験しました。従来の事業はまだマイナス 40% と、プレ・ロックダウン期と同じような状況ですが、これはシェアを伸ばしていることを意味します。」 - ジェイミー・ヘイル、 Ladder 共同創業者兼CEO(米国):
「はい、これまで以上のペースで市場シェアを獲得しています。eコマースで起きていることは、保険業界でも起きています。」 - マーティン-フライシャー、BavariaDirekt 取締役会メンバー(ドイツ):
「操業停止中も操業停止後も衰退はありませんでした。それどころか 特に犬の賠償責任保険は増加しました。」 - ビル・ソン、衆安テックグローバル CEO(中国):
「中国の保険業界は新型コロナウイルスの影響で非常に大きな打撃を受け、中国市場のほぼすべての既存事業者が売上高を減少させましたが、ZhongAnはトップラインで33.7%の成長、ボトムラインで122.4%の成長を達成しました。」 - フルール・デュジャルダン、InShared CEO(オランダ):
「私たちは、売上高と顧客満足度の向上と力強い成長を経験することができてラッキーです。人々は、適正な価格で公正なオンラインサービスを求めるようになってきています。それに加えて、お客様は私たちのユニークな提案を本当に評価してくれています。今年は保険金を支払うために必要のないお金は、お客様に還元されます。」 - クリスチャン・ウィーンズ、Getsafe 共同創業者兼CEO(ドイツ):
「Getsafeでは、すでに物理的な販売からオンライン販売へのシフトが見られます。新型コロナウイルスの発生以来、当社の売上高は20%増加し、当社の歴史の中で最も好調な数ヶ月間を過ごしました。」
トレンド2:広がりを見せる「新たな生活様式」
1. 前提条件:
スピーディーでより多くの情報やサービスとの接続が求められる
「この先を生き延びていくためにはデジタルであることが最も重要である」ということは、多くの保険会社の経営者が気付きはじめています。そして彼らは戦略的な重要性を認識しており、明確な緊急性を感じています。シンプルなデジタル製品、オンラインサービス、低コストでの顧客体験の提供、そしてスピーディーでより多くの情報やサービスとの接続ができること。これらは継続的な成長を行う上で欠かせないものであると同時に、生き残るためにも必要不可欠な要素です。そして、早急に実現する必要があります。新技術の迅速な導入によってデジタルトランスフォーメーションが加速され、インシュアテックはより大きな役割を担うこととなるでしょう。
DIA Insurtechデータベースに掲載されている2,500社のテック企業のうち、約80%が「イネーブラー(支え手、支援者)」であるとされています。 彼らは、バリューチェーンの特定の部分を改善したり、更新したり、新しいものを創造するために、既存のキャリアを支援することに焦点を当てています。彼らの領域は、プラットフォームソリューションの提供から、顧客とのやりとりの特定の部分をリモートで行うことを可能にすることまでと実に多岐にわたります。これらのソリューションから更なる新しいアイデアに火をつけるのは間違いなく面白いことであると言えるでしょう。革新的なプラットフォームソリューションプロバイダ企業には、Bambi Dynamic、DIG、Evari、iptiQ、Keylane、msg global、Tieto、UiPath、Vlocity、vlotなどがあります。リモートデジタルインタラクションを可能にする企業には、BDEO、boost.ai、Quattroruote Professional、Scanbot、Surfly、TechSee、Tractable、Xtract、Zelrosなどがあります。
2. 自動車保険は使用ベースが主流になる
特に人々が自分の車を使うことが少なくなると、実際の使用状況を反映したシンプルなソリューションの需要の増加につながるでしょう。週の大半も稼働しない車のために定額料金を払う必要があるのかなど、コロナウイルスによって、自動車保険もこれまでの定額料金形式ではなく使用ベース形式が主流になってくるかもしれません。
使用ベースの自動車保険を立ち上げるのを大手キャリアが支援している保険会社の一例として :Amodo、Cambridge Mobile elematics、DriveQuant、The Floow、Kruzr、Octo Telematics、Sentiance、TrueMotion などがあります。ほとんどのプロバイダーは、マイルやよりニーズに即した価格設定の先を見ています。彼らは、より安全な運転を促進することを使命としています。例えばCMテレマティクスは、運転中のスマートフォンの利用はアルコールよりも危険であることを発見しました。ドライバーに対して運転行動のフィードバックを提供することで、ユーザーに対して注意喚起を促すとともユーザー自身がより注意して運転するようになるなど、安全な運転を促進することに繋がります。
3.サイバーとサービスによる新時代の住宅保険
コネクテッドデバイスのおかげで、保険会社はユーザーのライフスタイルにおけるニーズに合わせて、よりパーソナライズされたサービスを提供できるようになるでしょう。自宅で過ごす時間が長くなればなるほど、こうしたサービスは住宅保険の延長線上で重要になってきます。家庭内での接続性の向上とそれに伴う新しいデータの流れはあらゆる種類の新しい方法を切り開き、さらに付加価値を高めてくれます。 人々が自宅で仕事をすることが多くなったことで、コロナ危機の後もサイバーセキュリティの重要性はますます高まります。したがって、短期的にはすでに住宅保険の範囲が広がっており、住宅保険、IoT、サイバーセキュリティ、サービスを組み合わせ、家をより良く管理し、総所有コストを削減するのに役立つ新たな提案が行われています。
理想的には、mitipi、Shayp、ROC Connectのような企業が提供しているスマートホーム技術、不動産アシスタンスサービス、保険、顧客エンゲージメントの向上を組み合わせて、CyberCube、CyberDirekt、CyberWrite、F-Secureのようなサイバーソリューションとのインテリジェントな組み合わせを考えてみたいと思います。私たちはこれを「イノベーション・マルチプライド」と呼んでいます。イノベーションを組み合わせることで、さらに革新的で、まったく新しい経済的価値のあるものを生み出すことができます。
4. 個人情報保護の問題を解決するための協調性
顧客データを利用するということは、プライバシーに関する懸念の新たな根拠を意味します。もちろん、保険会社は多くの消費者が抱える懸念に対処する必要があります。その答えが、相互主義です。保険会社が顧客データを利用する見返りとして、顧客にとって有意義なものを提供すれば、保険会社のデータ利用に対する消費者の認識は反転するでしょう。受け取る以上に価値のあるものを与えることが大切です。保険会社が消費者データに基づいて提供する付加価値は、その見返りとして個人情報を引き渡すコストよりも大きいと認識されるべきです。そして、お客様が自分では組み合わせられないものや、お客様が思いつかないような価値のあるものを組み合わせるべきです。
5. データ保護
何世紀にもわたって、保険会社は顧客に様々な保護や備えを提供することに従事してきました。サイバー保険を提供するだけでなく、新しいサービスを提供したりするなど、顧客のデータを保護するために顧客を支援することは、非常に理にかなっていると言えます。チューリッヒが導入したいわゆるPODS(Personal Online Data Storage)はその良い例です。顧客はデータを所有し、データのどの部分を第三者と共有したいかを決定するだけです。 これにより、新しいサービス提供などの価値提案のための多くの商品企画などを行う上で、顧客から共有された膨大な新しいデータは非常に有意義な情報になるでしょう。