2018年5月7日、SBI生命保険株式会社(以下、SBI 生命)と近畿大学は、2018年5月14日から、近畿大学医学部附属病院で治療中のがん患者を対象に コグニティブ・コンピューティング・システム(以下、コグニティブ・システム)を活用したがん遺伝子パネル検査の実施可能性を問う臨床研究を開始する。
コグニティブ・システムとは、人工知能(AI)活用した技術で、学習能力を持っていることが特長である。人工知能は人間ができることを機械に代替するだけだが、コグニティブ・システムは人がより良い作業が行えるようにサポートする技術である。
2018年3月26日に発表されたプレスリリースでは、コグニティブ・システムを活用したがん遺伝子パネル検査に基づき、患者に最適な抗がん剤治療法を提示する体制を構築していた。2018年夏から臨床研究を開始すると発表したが、反響が大きかったため、時期を前倒しし、本格的に臨床研究を実施する運びとなった。
本研究によってSBI生命はがん遺伝子パネル検査の費用負担軽減につながる新たな保険商品(※1)の開発が可能かどうかを調査する。
臨床研究の概要
がん遺伝子パネル検査は、患者一人ひとりの微小ながん組織または血液から遺伝子情報を解析して、その方に最適な治療法を診断するもの。がんの標準治療が効かなくなり使用できる薬がなくなった場合でも、効果が期待できる薬物治療を見つけられる可能性があるという、遺伝子検査技術である。
近畿大学医学部ゲノム生物学教室は、「近大クリニカルシークエンス」プロジェクトとして全国に先駆けてがん遺伝子パネル検査に取り組み、これまでに1,000件以上のがん組織サンプルの遺伝子解析を実施した。
本臨床研究では、「近大クリニカルシークエンス」にコグニティブ・システムの技術を取り入れることで、電子化された2,000万件を超える論文情報をはじめ、がん腫瘍部分の遺伝子変異や生命のメカニズムに関する膨大な知識情報を活用して、患者一人ひとりに適した抗がん剤とその標的となる遺伝子を解析する。さらに一連のプロセスにおいて、経過日数・検査費用や臨床的意義などや人工知能や保険商品(※1)を活用するためのノウハウを研究し、より最適ながんゲノム医療提供体制の構築につなげるソリューションの検討・開発を行う。
なお、本取組みで解析を行う遺伝子は、がんの病変部分の遺伝子で、通常の「親の体質が子に伝わる」遺伝子とは別のものである。
背景
がん遺伝子パネル検査は、近畿大学医学部附属病院だけでなく国内の一部医療機関ですでに提供されている。現在のところ保険診療ではなく、検査費用や検査後に薬物治療を受ける場合の費用が高額であることから、多くのがん患者が利用するには社会環境が整っていないという課題を抱えている。
※1 SBI生命は「がん遺伝子パネル検査」にかかる高額な費用を保障することができる保険商品の開発に向けた研究を開始する。本商品開発に向けた研究では、保険加入時の審査や保険金支払い時において、遺伝情報の収集・利用は一切しないことを前提としている。